AI通じ災害情報を可視化・予測、初動態勢を支援 防災テックベンチャー「Spectee」

2021.12.27

官公庁と連携したスタートアップ
防災テック事業を展開する
Spectee
連携先の行政機関
福井県など7都道府県の
防災部門の8割が導入
行政機関側の課題
市民からのSNS情報を可視化して
俯瞰的に見ることで
災害時の初動対応を的確に行う

日本では近年、気候変動の影響と思われる大規模な自然災害が毎年のように発生している。災害対策は初動態勢がカギを握るため、被害状況を瞬時に把握できるようにしておくことが重要だ。防災テックベンチャーのSpectee(スペクティ)が提供しているのは、AIを活用することで災害情報を可視化・予測するサービス。技術に対する信頼性は高く、福井県など全国47都道府県の防災部門の8割で導入されている。

官公庁と連携したスタートアップ防災テック事業を展開するSpectee(スペクティ、東京都千代田区)
Specteeの村上建治郎代表取締役CEOは2011年に発生した東日本大震災の直後、被災地に向かった。テレビでは甚大な被害を受けた宮城県石巻市からの中継が多く、多くのボランティアが映っていた。「やることはあまりないだろうな」と現地に足を踏み入れると、報道とはまったく異なる状況に直面した。隣接する東松島市には、ボランティアが殆どいなかったのだ。
当時のスマートフォンの普及率は1割。ツイッターなどのSNS文化はまだまだ未成熟だったが、「マスメディアは全体像を詳細に伝えているわけではない。現場にいる人の声を集め、状況をリアルに伝えることが必要」という意識が芽生え、Specteeの設立に至った
連携先の行政機関福井県など47都道府県の防災部門の8割が導入
同社のサービスはすでに全国47都道府県の防災部門の8割、約600社の民間企業が採用しており、実証実験も活発に行われている。例えば福井県の場合、2018年2月の豪雪で立ち往生した車両が多く発生し県内の道路交通に大きな障害が生じた点を踏まえ、カメラで得られた画像と気象条件を組み合わせたAI解析による路面状態のリアルタイム判定を行った。
行政機関側の課題市民からのSNS情報を可視化して俯瞰的に見ることで災害時の初動対応を的確に行う
自治体が災害情報の可視化・予測サービスを積極的に導入する理由は、市民からのSNS情報を可視化して俯瞰的に見ることが、災害時の初動対応に有効であるため。ただ、SNSはデマや誤情報も含まれ、発生場所の特定が困難な場合もあり、AIを活用することで情報の真偽や場所を迅速に特定し、的確に被害状況を確認する作業が不可欠となる。

導入したプロダクト

災害の発生から1分で発生場所と被害状況を地図上で確認できる

Specteeが提供するサービスではSNSをはじめとして気象や自動車走行、人流といった各種データ、河川・道路カメラなどをAIで解析し、必要な災害情報を迅速かつ正確に可視化、配信する。発生から1分で発生場所と被害状況を地図上で確認できる仕組みだ。また、「人が入ることで正確な情報を担保している」(村上CEO)点も特徴。デマやフェイク、誤情報に関してはAI解析による1次チェックを踏まえ、専門のチームが24時間365日にわたって投稿のチェックを行う。一連の仕組みが訴求力となって、SNSの信ぴょう性に懐疑的だった自治体の信頼度も高まっている。

導入以後の感想/結果

大分県では豪雨時の救助に活用

大分県では2020年7月の豪雨時に、SNS情報を複数件の救助に活用した。土砂災害等による孤立からの救助や安否確認などを求める投稿が目に留まったため、投稿にリツイートして被害状況の確認や適切な連絡先を伝えるなどの対応を行った。

今後の展望/課題

AIによる被害予測を踏まえた未来の可視化

Specteeが今後力を入れていくのがAIによる被害予測を踏まえた未来の可視化だ。具体的にはSNSに投稿された画像に基づき、降水量や地形データを加味して浸水範囲と浸水の深さを推定し、10分以内に3Dの地図上にシミュレーションを行う。すでに2021年夏に発生した佐賀県武雄市と島根県出雲市で発生した河川氾濫の際に実績を残している。また、SNSの情報から、30分後や1時間後の被害範囲をシミュレーションする技術も未来の可視化にとって不可欠だ。
自治体ごとに避難指示に関する基準が設けられているが、実際は危機管理担当者の肌感覚に頼る部分が大きい。しかし、ゲリラ豪雨によって急激に水かさが増すような事態が頻発化しており、従来の経験則は通用しにくくなっている。迅速な災害対応を行っていくためにも、被害状況を分かりやすく可視化する技術への期待度は大きい。