東京などで活躍する複業人材を登用し地域を活性化 優秀な複業人材を登録しているAnother works

2021.05.06

官公庁と連携したスタートアップ
Another works
連携先の行政機関
埼玉県横瀬町、大阪府太子町、
石川県小松市、長崎県壱岐市、
岐阜県垂井町、奈良県三宅町など
行政機関側の課題
情報発信やDXにかかわる
専門分野の人材がいない
導入したプロダクト
複業したい人との間をつなぐ
SaaS型マッチングプラットフォーム
導入以後の感想/結果
コンサルタントや
制作・デザインにかかわる
3人のプロフェッショナル人材と出会った
今後の展望・課題
次のステップに進もうとしている
プロジェクトもある

埼玉県横瀬(よこぜ)町は県内有数の観光地である秩父市に隣接している。池袋から特急で70分台という東京に近い場所ながら、県内最大規模の棚田が広がるなど昔ながらの風景が残っている。ただ、小さい町ということもあり、域内の資源は限定的で、人口は年間100人ぺースで減り続けているのが現状だ。こうした事態を踏まえ取り組んでいるのが「よこらぼ」。地方創生や新しい公共サービスにつながる先駆的なアイデアや事業モデルを募集する、官民連携のためのプラットフォームだ。具体的には複業したい人と企業をつなぐSaaS型のマッチングプラットフォームを提供とするAnother works(東京都渋谷区)と連携。複業人材の登用は、行政や町おこしに有効なのかを検証する実証実験に乗り出した。そのねらいについて勝間田幸太・横瀬町役場まち経営課主査と細越望海・同主事に聞いた。

深刻化する人口減少

――人口減少の問題を深刻視し、よこらぼを立ち上げたそうですが

勝間田「2000年前後の約1万人をピークに右肩下がりを続けており、現在は約8100人です。このままのペースが続けば2060年に2400人まで減少する見通しで、町としての機能を維持できなくなります。このため、人口減少に耐え、備えるための取り組みを積極的に行うことにより、同年に5400人の人口を維持することを目標として掲げています。それを実現するには、これまでと同じやり方では限界があり、新たなチャレンジが必要との考えから、富田能成町長が発案し2016年にスタートしました」

提案は町の新サービスに発展

――どういった効果が表れていますか

勝間田「これまで寄せられた約160の提案のうち、90件以上がプロジェクトとして具現化し、街の新たなサービスに発展するなど着実に実績が積み上がっています。引き続き関わっている横瀬町以外の人も多く、その方々をいかにつなぎ止めていけるかが課題です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大によって働き方が変わったこともあり、今後、テレワークなどを活用して、町に継続的に関わってもらえる仕組みを作っていくことも検討課題ですね」

地元コシヒカリでどぶろく

――町民の反応はどうでしょう

勝間田「自分たちも新しいものに取り組んでいこうという機運が高まっており、町内の方々からの提案も出始めています。そのひとつが町の新たな名産品、どぶろくです。横瀬町で無農薬栽培されたコシヒカリを原料としてどぶろくを作りたいと、地元の生産組合から提案を頂きました。大規模な企業誘致は難しいので、今回の経験も生かし、既存のアセットを活用した新たな取り組みにも力を入れたいと思っています」

外部の専門人材が刺激もたらす

――ベンチャーと連携した目的は何でしょう

細越「複業に携わっている人材の登用は、行政や町おこしに有効であるかどうかを検証するためです。今回は3つのプロジェクトを円滑に進めていくことを目的としています。具体的には①公共交通をコミュニティバスからデマンドタクシーへと切り替えるのに伴う、住民への分かりやすい情報発信法②国民健康保険のデータ分析を踏まえた健康対策③Withコロナ時代を見据えた国際交流の在り方―です。横瀬町にはいない専門人材の手を借りてプロジェクトを進めたいとの考えから、多くの優秀な複業人材を登録しているAnother works(アナザーワークス)と連携しました。今回はコンサルタントや制作・デザインにかかわる3人のプロフェッショナル人材と出会うことができました。すでに成果が出ており、次のステップに進もうとしているプロジェクトもあります。引き続き町とプロフェッショナル人材が協働することで、新しい価値を生み出していくことに期待しています」

自治体との協業を推進し、DX化などを支援

埼玉県横瀬町と連携したAnother worksは、複業をしたい人と企業をつなぐSaaS型のマッチングプラットフォームを提供している。エンジニアやデザイナー、営業や人事といったさまざまな領域で高いスキルを備えた1万5000人以上の人材が登録しており、最近では街の活性化を図ろうとする自治体との協業が相次ぐ。大林尚朝代表取締役CEOは「自治体との取り組みを今後も積極的に進めていきたい」と話す。

色々な組織に所属し価値を発揮

――Another worksでは、「副」業ではなくて「複」業という使い方をしています。

大林「副は副収入といったイメージが強く、副業は第一の目的がお金といった印象を与えます。一方、複は仕事においてメーンもサブも関係ないということを意味しています。これからは色々な組織に所属して自分の価値を発揮していく、といったキャリア形成が増えるはずです。複数の居場所を持っておきたいという人を多く取り込みたい、という考えから複業という言葉を用いています。」

人材に無制限にアプローチ

――プラットフォームの仕組みを教えてください。

大林「ドラマや映画を定額料金で視聴できるNetflix(ネットフリックス)の複業採用版と思ってください。企業は毎月定額料金で、登録者の中から求める人材を探して無制限にアプローチできます。採用が実現しても成約料は一切かかりません。複業したい人は登録・利用が一切無料で、求人先への直接エントリーが可能です。」

他の自治体とも順次協定を交わす

――自治体との連携も活発です。

大林「横瀬町に先立ち、2017年に過疎指定された日本で2番目に小さな町といわれる奈良県三宅町との間で、複業人材の登用によるまちづくり包括連携協定を締結し、DX・行政手続きサービスのデジタル化などを推進するアドバイザーや人事・採用戦略アドバイザーなどを募集しました。2週間で100人のエントリーがあり、7人を登用した結果、第一期終了前から町長だけではなく役場職員の皆様から好評の声をご報告いただいています。このほか山梨県大月市や福岡県豊前市とも協定を交わしています。」

化学反応に期待

――こうした動きは今後どのように推移していくと思われますか。

大林「首長の『街をよくしたい』という熱意に支えられ、『民間の第一線で活躍する人の知恵やアイデアを惜しみなく取り入れて、化学反応を起こしたい』という自治体は増えています。このため自治体との取り組みは積極的に進めていきたい。ただ、こういった前向きな思いがない自治体とは、連携してもうまくいかないという仮説が私の中にあります。」

コロナを契機に複業ニーズ高まる

――複業自体の将来性はどうでしょう。

大林「COVID-19によってオンラインが当たり前の世界が到来しました。これによって個人が自由に使える時間が増え、スキルアップや社会貢献のための取り組みを検討する方が増えています。また、企業業績の悪化に伴って収入が減少し会社に所属することへの不安や不満が確実に大きくなっています。こうした状況を踏まえると、複業ニーズは確実に高まっていくことでしょう。」