【イベントレポート】官民連携で広がるスタートアップ×行政の対話と共創(1)

2025.01.06

官民連携で行政課題解決を目指す、スタートアップと行政の連携拠点「TOKYO UPGRADE SQUARE(通称:TUS)」は、今年1月27日に開設3周年を迎えました。これを記念して「官民連携で広がるスタートアップ×行政の対話と共創」と題した3周年イベントを、3月5日に開催しました。

本イベントでは、東京・西新宿をはじめ、全国各地で実証実験を推し進め、自動運転の社会実装をリードする株式会社ティアフォーの取締役COO 田中 大輔 氏をお招きし、同社がこれまで取り組んできた官民連携の事例について紹介頂きました。

さらに、TUSを通して実現した官民連携事例として、当事者である行政の担当者×スタートアップの経営者をお招きし、双方の視点から効果的な連携の進め方についてお話頂きました。

当日は会場参加、オンライン参加を含めてスタートアップや行政職員の方をはじめ、100名以上の方が参加し、質疑や議論が活発に交わされました。さらに、その後の現地交流会でも、スタートアップと行政職員の間で様々な意見交換が行われました。

イベント&レポートでは、当日の内容(概要)を3回に分けて掲載いたします。本レポートでは、株式会社ティアフォーの講演概要をご紹介いたします。

「官民連携で実現する社会のイノベーション」

株式会社ティアフォー 取締役COO 田中 大輔 氏

1. ティアフォーの事業概要

世界初となるオープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を主導する名古屋大発ベンチャー。東京・西新宿をはじめ全国各地で実証実験を展開し、自動運転システムの社会実装を推進しています。

2. 次世代型モビリティ市場が求められる理由

日本では自動運転をはじめとして、キックボードや乗り合いのオンデマンドタクシーなど、新しいモビリティに対するニーズが高まっています。これまでのモビリティは一つの移動手段という位置づけでしたが、地域を支える社会インフラとして新しいモビリティを活用していこうという気運が高まっています。運転手不足の問題をはじめ交通事故や渋滞の減少、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルに貢献するという理由で注目されています。

3. 自動運転は新しいビジネスモデルを形成

一方で、「家の前まで迎えにきてほしい」「予約なしで乗りたい」といった多様なニーズが生まれてきており、できるだけ対応していくのが、これからのモビリティ産業の命題だと考えています。供給側としては、100年の歴史がある自動車のかたちやモノづくりのあり方を含めて価値の再定義が必要になってきている。また、売り切りという形だけではなく、サブスクリプション(定額課金)などで収益を計上するという動きも顕在化しており、新しいビジネスモデルをどのように組み立てていくのかが命題となってきています。

4. 自動運転が創造する自動車産業の在り方

自動車産業は100年に1度のパラダイムシフトと言われており、電動化や自動化、シェアリング等を考えるために新しい人材、新しいサプライヤー網、新しい安全の考え方等が必要となってきており、従来のピラミッド型の産業構造(取引系列)では対応しきれなくなってきています。一方で自動車産業はモノづくりの根幹であることから、ピラミッドを壊すのではなくて、ピラミッドを支えるような道標が必要となります。

5. ピラミッド構造を支えるための道標(方策)

端的に言えば、イノベーションの実現が必要となり、そのためには、新しい発想や行動様式を備えた人をどんどん活用し、大学などと連携しながら最新の技術を導入することが重要となります。さらに、イノベーションにはリスクとお金がかかるので、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)や税制優遇などの仕掛けが欠かせません。
これらの取り組みでイノベーションの種をまいた上で、花開くために、例えばキックボードのLuupが活用したような一時的に規制を凍結する政府のサンドボックス制度や特区など、スタートアップに並走してくれる仕組みが重要な役割を果たします。そして、TOKYO UPGRADE SQUAREのような官と民が一緒に支えていくインキュベーション施設があるとベンチャーにとって嬉しいし、色々とコラボが誕生します。さらにイノベーションを定着させるための多層的な人材、開発や実証を支える補助金等の公的なサポートが必要となってくる。
自動運転の領域ではこれらの支えがあり、西新宿では、地元の方々、東京都、各社の交通機関に支えられ、街づくりと一体となって取り組みを進めています。

6. ティアフォーのアプローチ

自動運転の基本的な仕組みは簡単に述べると、カーナビと同じで、事前に作成した3D地図と車両の各種センサーで撮ったデータを比べることで、自己の位置を推定・探索しながら走っています。
簡単な仕組みなようで技術的には難しく、例えば、3D地図とセンサーで撮ったデータをリアルタイムでマッチングさせる必要性など、解かなければならない課題は沢山あるのが現状です。そのような中、ティアフォーはオープンソースでソフトウェアを提供し、自動運転に必要な支援(車に搭載する部品提供やクラウド上のサービス等)を行うことで収益を得る事業を構築しています。

7. 西新宿での実証実験の概要

西新宿はオフィスやホテル、病院・学校、公園などさまざまな施設が存在しています。また、新宿駅前再開発や道路空間再編の検討が進んでおり、多様な目的で幅広い層の人々が集まるポテンシャルを有しています。その一方で、立体的な都市構造による目的地までの経路のわかりづらさや上下移動の多さ、回遊性やにぎわいが欠けているという課題を抱えています。このため「西新宿をどのようにしたいのか」という観点を踏まえ、周辺を走るバスやタクシーと連携しながら、2020年度から自動運転の実証実験を行っており、信号が見えにくくバス停から乗りづらいといった課題を、少しずつ改善しています。一過性に終わらないための仕掛けを行っていくことが重要です。

8. 自動運転の実装がうまくいかないケース

当社は相模原市で、一定の条件下で運転手が不要な「レベル4」の自動運転の認可を取得しています。また、つくば市や富山市でも自動運転の実証実験が行われています。首長の熱意がけん引力となっているケースが多いです。
ただ、流行りだから取り敢えずやってみようとか、来年は市長選だから話題作りのためにやってみようといったノリだと長続きしません。また、自動運転を実用化すれば地域の課題や交通の問題をすべて解決するという人もいるが、実際はそうでもありません。あくまでも色々な交通システムのワンオブゼムとして補完的に使うことが大事です。
本来は、「地域や街をどうしたいのか」ということを考えるためのツールなのに「取り敢えず自動運転を取り入れれば何とかなるだろう」と逆の思考回路が働きがちになります。また、最初からバス会社などステークホルダーをうまく巻き込むことが必要です。さらに、意外に儲からないことも認識しておくことが必要でしょう。西新宿では色々な人の支援をいただきながら、うまく街づくりと連携して実証実験を進めています。

9. これからの自動運転

2025~2027年頃までは、アーリーアダプターの自治体が中心となってシャトルバスの実装が進んでいくことが見込まれます。一方で、信号機の通信連携、専用レーンの設置など、官民連携で解決していかなければならない領域も多く残っており、解決機運が高まってきていると思います。さらにリアルタイム性や省電力化などイノベーションが求められる要素技術開発も残っており、政府の研究機関等との連携も必要となると考えています。また、手動運転も当然残るので、旅客や物流、バスやタクシーなど幅広い分野で上手く連携していくことが重要となります。そして、2030年の自動運転の実現を待たずに活用できる技術はどんどん世の中で活用し、喫緊の社会課題解決に少しでも貢献していく姿勢が重要と考えています。

(次回のイベント&レポートに続きます。次回は新宿区×株式会社Another worksの事例を紹介します。)

ご案内

TUSでは、行政課題や社会課題の解決、官民連携に関心のあるスタートアップの方々、スタートアップとの連携に関わる行政職員の方向けに、様々なイベントや支援を行っております。ご関心のある方はぜひメンバー登録ください!!