【イベントレポート】官民連携で広がるスタートアップ×行政の対話と共創(2)
2025.01.06
官民連携で行政課題解決を目指す、スタートアップと行政の連携拠点「TOKYO UPGRADE SQUARE(通称:TUS)」は、今年1月27日に開設3周年を迎えました。これを記念して「官民連携で広がるスタートアップ×行政の対話と共創」と題した3周年イベントを、3月5日に開催しました。
イベント&レポートでは、当日の内容(概要)を3回に分けてお伝えいたします。
本レポートでは、TUSを通して実現した官民連携事例として、新宿区 総合政策部 行政管理課 白石 祐大 氏と株式会社Another works 代表取締役 大林 尚朝 氏にお話頂いたセッションの概要をご紹介いたします。
TOKYO UPGRADE SQUARE(TUS)で実現した官民連携①
新宿区×株式会社Another works
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TOKYO UPGRADE SQUAREを通じて実現した官民連携の当事者である行政の担当者×スタートアップの経営者に事例をご紹介いただくとともに、双方の視点から効果的な連携の進め方についてお聞きしました。
新宿区 総合政策部 行政管理課 白石 祐大 氏
株式会社Another works 代表取締役 大林 尚朝 氏
1. 新宿区 民間提案制度について
- 白石氏
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新宿区では質の高い行政サービスの提供と業務の効率化を図るため、民間事業者などから事業提案を募集する新宿区民間提案制度を令和4年度から導入しています。事業者側には様々なアイデアがあると思いますが、区の課題感とマッチしているのかどうかなど、総合政策部行政管理課がワンストップの窓口となって判断したり、必要な情報を提供しています。また、解決したい課題について、担当職員を交えての意見交換会を随時開催しています。
2. Another works事業概要
- 大林氏
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専門人材が不足している地方自治体が、民間の複業人材を登用することによって地方創生を推進できるようにする複業マッチングプラットフォーム「複業クラウド」を提供しています。複業クラウドを通じて大幅な環境変化なしに新たな挑戦が可能となります。
デジタルトランスフォーメーション(DX)やふるさと納税の進め方など行政課題は山積しており、職員だけではなく複業に携わる民間人材の力を借りながら一緒に解決することが有効な手段の一つです。このため金銭報酬とは異なる形で地方自治体の課題に貢献し、リスクヘッジしながら新しいキャリアを手に入れたいという複業人材を集めています。
複業人材を活用してみたいという自治体は非常に多く、まず実証実験から始め、それを踏まえて予算を使ってでも採用したいという要望は強まっており、約4年間で47都道府県、190以上の自治体が導入しています。新宿区との連携ではデザインアドバイザーとして2名が参画しました。行政単独だと職員の採用に苦労しますが、複業人材であれば2週間あれば1求人あたり10~30人ほどがエントリーします。
3. 新宿区×Another works 官民連携の経緯
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Another worksのソリューション導入に当たっての懸念点と決め手になった点は
- 白石氏
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TUSの行政職員来館DAYというイベントがあり、Another worksの担当者とつながりました。その場で新宿区の課題感をざっくばらんに伝えたところ、デザインアドバイザーという職種の話が浮上し、複業人材の活用の可能性について話し合いを進めた次第です。
新宿区としては実証実験を実施して終わりではなく、成果を出したうえで、その後にどういった形で展開できるかということを重視していました。そうした部分を他の自治体の事例を引き合いに説明していただき納得したことに加え、Another worksのサービスを活用すれば、将来的に他の事業へ横展開するにしても領域の幅が広いと判断したからです。
今回の実証実験では、複業人材とのやり取りを行政管理課が直接行ったため、現場からの反発はありませんでした。仮に横展開して、各担当部署が採用活動に携わるというスタイルになれば、マニュアルの整備などが必要になってくると考えています。
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自治体の懸念点を払拭するために提案の際に心がけていたことやフォローアップはどのように行ったのでしょうか?
- 大林氏
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まず募集の部分では新宿区さまの課題をお聞きし、どういうスキルセット等を持っている人材であれば解決するのか、その認識をすり合わせた上で人材の要件定義化を支援させて頂いております。
その上で、民間の複業人材を採用したことがない行政がほとんどで、かつ採用基準もないため、Another worksが書類選考や面談選考に同席し、助言をしながら一緒に決めていくことで、これまで採用成功率100%、かつ採用ミスマッチもほとんど発生せずにスタートできています。
4. 官民連携の成果と今後の展望
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デザイナー2名の登用によって、どういった効果や反応があったのでしょうか?
- 白石氏
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チラシやパンフレットのデザインに関して職員のスキルアップを図り、まちとしての情報発信力の底上げを目指しデザインアドバイザーを公募しました。デザインの研修と終了後の伴走支援を通じ、職員が作成していたチラシのデザインのフィードバックを行ってもらい、「アドバイスをもらって読みやすくなった」などの評価をいただいています。
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行政側と採用した民間人材の間に入ったフォローアップ等も行われたのでしょうか?
- 大林氏
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新宿区の住民は国籍がバラエティに富み年齢層も幅広いため、伝えたい情報を伝えるだけではなくて、どのように工夫したら伝わるかというデザイン力も必要です。そういった観点からのフォローアップに力を入れました。
また、民間人材と行政の間では、スピード感や言語に加え、チャットツールも異なります。行政の常識が民間の非常識にもなりますし、逆もしかりです。コミュニケーションで困っていたり、「もっとスピードアップを図ってほしい」とか「メールではなくてslackを使ってほしい」など、なかなか言えない本音もあったりすると思います。そのため、我々がしっかりと両者の間に介在し、全自治体でフォローアップを行っています。最初の1~2カ月、その部分をフォローアップすれば、非常にうまくコミュニケーションが進むようになります。
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新宿区×Another worksの官民連携の今後の展望を教えてください。
- 白石氏
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令和6年度は民間提案制度を積極的に活用し、色々な提案を採用する計画です。複業人材の活用については、チラシのデザインというかなり狭い切り口で支援してもらったが、情報発信やSNSなど横に広げる可能性もあるので、Another worksと相談しながら進めていきたいと思っています。
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(次回のイベント&レポートに続きます。次回は墨田区×株式会社humorousの事例を紹介します。)
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