【イベントレポート】官民連携で広がるスタートアップ×行政の対話と共創(3)

2025.01.06

官民連携で行政課題解決を目指す、スタートアップと行政の連携拠点「TOKYO UPGRADE SQUARE(通称:TUS)」は、今年1月27日に開設3周年を迎えました。これを記念して「官民連携で広がるスタートアップ×行政の対話と共創」と題した3周年イベントを、3月5日に開催しました。

イベント&レポートでは、当日の内容(概要)を3回に分けてお伝えいたします。
本レポートでは、TUSを通して実現した官民連携事例として、墨田区 都市整備部 道路公園課(現公園課) 浮貝 忍 氏と株式会社humorous 代表取締役 田村 勇気 氏にお話頂いたセッションの概要をご紹介いたします。

TOKYO UPGRADE SQUARE(TUS)で実現した官民連携②
墨田区×株式会社humorous

TOKYO UPGRADE SQUAREを通じて実現した官民連携の当事者である行政の担当者×スタートアップの経営者に事例をご紹介いただくとともに、双方の視点から効果的な連携の進め方についてお聞きしました。

墨田区 都市整備部 道路公園課(現公園課) 浮貝 忍 氏
株式会社humorous 代表取締役 田村 勇気 氏

1. 隅田川花火大会で墨田区が抱えていた課題と官民連携による課題解決

浮貝氏

隅田川花火大会で墨田区は、ベルトコンベヤーに来場者を乗せるような形で川沿いに誘導しなければならず、多くの人が滞留するという問題を人海戦術で解決しなければいけないという事情がありました。

本番では花火がよく見えるように、会場周辺の照明を一斉に消灯した状態で運営します。花火が上がっていないときはかなり暗いですが、電気に頼らないもので快適に歩けるように誘導できたらいいといった考えから、青色蓄光素材を活用した標識デザインであるhumorousの「ナイトコンシェルジュ」の採用に至りました。

また、運営スタッフがリュック型の蓄光サインを担ぎ、来場者を先導してエスコートするといった取り組みも、外国人観光客などから好評でした。

2023年7月29日に開催された隅田川花火大会は過去最高となる103万人が訪れました。4年ぶりの開催ということで新しいことにチャレンジしやすい気運があったこともあり、また当日はhumorousの田村さんにもご一緒いただき、楽しく課題に取り組むことができました。

2. humorousの事業概要と墨田区との連携事例に関して

田村

太陽光を蓄えて夜間に発光する高輝度蓄光素材を創造的に活用した「ナイトコンシェルジュ」を展開しています。電力不要で設置コストや維持管理の負担も少なく、電柱に巻いたり道路に敷設し、暗い夜道の防犯対策や用水路の転落防止等に利用できます。また、利用者の皆さんがその空間を好きになるという副次的効果も生まれます。

隅田川の花火大会の事例では、2022年12月に発生し、多くの方が亡くなったソウル梨泰院の雑踏事故のように、どこに行っていいのか分からないほど人が殺到することを主催者側は恐れていました。そうした事態を防ぐためにオリジナルのサインを制作しました。さらにリュックタイプのサインは、行政の方の発案で、僕らからすればびっくりする話ですごく面白い発見でした。非常にユニークでエコな取り組みとしてメディアでも多数取り上げられました。

また、現在、東京都の多摩イノベーションエコシステム促進事業のリーディングプロジェクトに採択され、3Dモデルの新型プロダクトの制作を進めており、墨田区様とも設置に向けて協議しております。

3. 墨田区とhumorousが接点を持った経緯

今回、TUSの官民連携経営アドバイスをhumorous様が活用されて、墨田区様をおつなぎして生まれた連携事例となりますが、humorous様がTUSの官民連携経営アドバイスを活用した背景を教えて頂けませんでしょうか。

田村氏

「ナイトコンシェルジュ」は公共空間を使う性格を帯びている製品だったため、TUSに相談に伺ったのが最初にきっかけです。ただし、都内はそれほど暗い場所がないので、多数の自治体をお繋ぎいただいたものの、大きな反応はありませんでした。しかし、そうした中で墨田区から「公園で活用できないだろうか」というアプローチがありました。まさか隅田川の花火大会で使われるとは思ってもおらず、大会中には周辺の照明をすべて消すということも把握していなかったし、予想外の出会いでした。

4. 「ナイトコンシェルジュ」に関心を抱いた理由

産業振興課からhumorous様をご紹介頂いた後、どのような経緯で花火大会での活用に結びついたのでしょうか?ご苦労された点などもあればご紹介ください。

浮貝氏

まず日頃から公園管理上の課題解決については、自分で工夫することで改善を図っており、産業振興課の職員もそれを知っていたため、話を持ち掛けてくれたと思います。

その上で、例えば1つの公園には30~40もの注意・案内看板が掲出されていて美観を損ねていることに、どの自治体も課題を抱え、対応に苦慮しています。夜間に騒ぐ利用者がいるような公園では、「夜間はお静かに」という看板を掲出していますが、夜になると誰も視認できないというミスマッチもあり、そういった場所に「ナイトコンシェルジュ」を活用できれば問題が改善に向かうのでは?ということに気づけたのかが大きかったと思います。

一方で、スタートアップは行政がやるべきことに近い社会課題に取り組むというマインドを持っている人たちだと思っており、スタートアップとどうやって連携すればいいかを考えていくうちに、自分が考えていた課題とhumorousのソリューションがかみ合いそうだなということに気づきました。大変なこともそれなりにあったものの、結果的には「面白い」しかなかったです。こういった動きが自治体で広がるといいですね。

5. 官民連携を進める上での留意点

自治体とスタートアップでプレーヤーとしての属性が異なると思われますが、どういった点に気を付けるべきか、どういうスタンスだと上手くいくのでしょうか?

浮貝氏

規制を縫う部分を持っているのは役所側であり、私は墨田区という行政組織に属していますが、自分の取り組みについて「墨田区をいかに納得させるか」ということを常に考えていています。自分に限らず、新しい取り組みに積極的な行政職員が存在するということを内外に伝えていきたいし、役所がこうした姿勢を鮮明に打ち出すことで、官民連携でもっと面白いことができるようになるといいなと思っています。

田村氏

浮貝さんは話のテンポがスタートアップと変わりません。卓球に例えると、ボールを打ったらすぐに戻ってくるし、緩めに打ったら緩めに戻ってくる。お互いに尊重しあえた部分があります。

われわれのようなスタートアップは、自社のサービスに思い入れが強すぎて目の前のことを売り込むしかできません。しかし、相手の都合や決まりがある中で、それをできるだけ尊重しながら、自分の持ち味をアピールする必要があります。とかくスタートアップは自己本位のところがあります。そのような強力な推進力が不可欠な側面もありますが、少し客観的になってその部分をもう一回考えさせられたところが大きかったです。

ご案内

TUSでは、皆様の官民連携の「航海」を支える灯台として、行政課題や社会課題の解決、官民連携に関心のあるスタートアップの方々、スタートアップとの連携に関わる行政職員の方向けに、様々なイベントや支援を行っております。ご関心のある方はぜひメンバー登録ください!!