【イベントレポート】行政協働に必要なノウハウ

2021.05.20

※本記事のセミナーは2021年2月17日に開催されました。

行政協働に取り組むスタートアップは増えているが、「自治体にどういった形でアプローチすればよいのか」といった知識を得ることは決して容易でない。このため「行政協働に必要なノウハウを学ぶ」と題し、デロイトトーマツベンチャーサポートへ出向中の北九州市職員、谷本真一氏が意思決定プロセスなどの基本知識からアプローチに関する具体的なノウハウに至るまで、事例を交えながら講義を行った。

自治体の事業の進め方

基本構想・計画のチェックをしっかりと

まちづくりの基本的な理念や目標、方針などを定める基本構想を策定した上で、それを実現するための具体的な施策を体系化した基本計画をまとめます。それを踏まえ具体的な事業を示す分野別実施計画を定めていきます。いずれも公表されているため、自治体を知るには事前に把握しておくことは非常に重要です。

意思決定のパターン

基本はボトムアップ型

大きく分けて3つに分かれており、基本は担当者が窓口となるボトムアップ型です。接触は容易ですが時間を要するため、もどかしさを感じがちです。首長や幹部を通じたトップダウン型の場合、スピード感はあるのですが、人が変わると方針も変わるというのを念頭に置くことが必要です。もうひとつは議員経由のパターンですが、受ける側の職員としては身構えたり対応に悩んだりすることがあります。

契約について

原則は一般競争入札

一定の資格を持つ不特定多数の参加を求め、その中から最も有利な条件を提示した者と契約を締結するのが一般競争入札で、自治体との契約形態の原則となっています。その他の指名競争入札や随意契約は例外的な契約形態となり、契約できる要件が地方自治法や自治体の規則などで決まっています。また、契約の相手方となるためには自治体へ事前に資格登録を行う必要があります。契約に要する期間ですが、入札系は募集要項の公表、参加表明書や提案書の提出、ヒアリングといったさまざまなステップを踏む必要があり、契約まで約2、3カ月を要します。随意契約は手間が少なく1カ月ほどで済みます。

予算

補正予算は国の政策動向を注視

当初予算は会計年度を通じて一切の歳入・歳出を計上し、年度の開始前に議決する必要がある予算です。補正予算は突発・予定外の事由によって当初予算で対応できない場合に追加、変更される予算です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に伴う経済対策や災害対応などに応じて計上しますので、国の政策の動向を注視しておく必要があります。

5~7月に提案を行うのが理想

こうした特性を踏まえ、自治体に対する予算関連の提案時期について考えてみましょう。100%の正解はないですが、理想的なのは5~7月です。新規事業のネタ探しを行っている時期で、新たなサービスの提案を聞いてもらいやすく予算化につながる可能性があるからです。それを過ぎると「今さら言われても」といった感じになります。もうひとつタイミングがあるとすれば、自治体によってばらつきはありますが、予算議会の前に予算概要や方針が発表される12~1月です。公表された情報に基づき、次年度の事業実施の際に「当社のサービスを活用できるのでは」と提案できる可能性があるからです。

自治体協業の流れ

連携パターンは4つ

自治体協業には(1)予算を確保した上での業務契約(2)連携協定の締結などにより既存のアセットを活用する実証実験(3)補助金など制度の活用(4)契約と協定、制度活用を行わない―という4つの大きな連携パターンがあります。実証実験や地域内での展開などスタートアップのニーズに応じ、どういった連携方法を取るのかについて明確にすることが重要です。

初期の段階で明確な目標を設定し共有することが必要

このうち官公庁と民間企業による連携協定について詳しく紹介します。外部のアイデアやノウハウを活用し相互の協働によって多様化する行政課題や住民ニーズに柔軟に対応するのが目的で、包括協定と特定分野に絞った協定があります。(1)自治体のアセットやインフラ、人材を活用できる(2)地域の企業や金融機関、関係団体との接点が増える(3)首長との記者会見などによりメディア露出が増える―といったメリットがある半面、成果を明確にしておかないと「期間とリソースを費やしたけど、何が残ったのだろう」という形で終わるケースも散見されます。初期の段階で明確な目標を設定し自治体との間で共有することが必要でしょう。

自治体営業用の資料

導入事例やメディア掲載実績などは有利に働く

会社紹介と課題、課題の解決策と期待・効果、事例、具体的な導入イメージという要素が含まれていればいいと思います。メディア掲載実績などがあると安心感があり、他自治体の事例がひとつでもあると次のステップに進む可能性が高まります。導入パターンは複数あると、検討がしやすくなります。
また、提案内容住民サービスの向上に寄与しながら事務の効率化や経費の削減を果たすといったように、住民と自治体が〝Win―Win〟の関係づくりを目指すことが重要です。