西新宿に吹く「スマート東京」実現の追い風

2021.06.25

東京都は次世代通信規格「5G」を活用した情報社会「スマート東京」の実現に向けた戦略を推進している。スマート東京の実質的な拠点は都庁がある西新宿エリア。「TOKYO UPGRADE SQUARE」がテナントとして入る地上52階建ての新宿住友ビルディングも、その一角にそびえる。西新宿では街全体での価値向上を目指しており、その中心的な役割を果たすのが一般社団法人の新宿副都心エリア環境改善委員会。スマート東京の始動によってベンチャーが西新宿に集積する可能性を秘めているだけに、大成建設都市開発本部まちづくり推進室長で同委員会の実務責任者である小林洋平技術担当理事は「多様な人が集まって交流し新たなコミュニティが形成され、色々な活動ができる場所にしたい」と意気込む。

新宿という街の魅力は何でしょう。

新宿駅を中心とした半径1キロ以内に西新宿のオフィス街をはじめとして商業エリアや歌舞伎町、住宅など色々な機能が内包されており、いわば、都心版のコンパクトシティを体現化している点です。

西新宿の特徴は。

JR中央線が走り小田急電鉄と京王電鉄などの始発駅でもあり、行き来しやすい場所であることです。また、就業人口は約20万人で多くの企業が集積しています。人が集まりやすく、足元のオープンスペースも充実しています。

スタートアップへのアピールポイントは何ですか。

企業を育てるには横同士の連携によって色々な人が集まり、ワイワイやりながら新しいビジネスを誕生させるといった雰囲気を醸し出すことが重要です。その意味で人が集う環境というのは重要なインフラです。また、西新宿には住設機器メーカーなどのショールームも集積しています。ショールームは単なる販売拠点ではなく、顧客の意見を収集し新たな商品の開発につなげる場。新しいものを生み出す文化が西新宿に宿っているわけです。こうした要素を繋げ合わせると、スタートアップと連携して何かに取り組むには最適な街だと言えるでしょう。

東京都は5G社会の実現に向けて西新宿への重点投資を行っています。

当委員会は西新宿に立地する企業19者によって構成されています。『自分たちのビルに留まらず、西新宿全体のエリア価値を向上させよう』という考えからスタートしています。スマートシティ時代を見据え、空間整備だけではなくて新たなサービスやソフトを提供しビジネスを変換する場にしようとしています。企業も変革しつつあります。

東京都心部ではエリア間の開発競争が激しさを増しています。

他のエリアは新しいビルを整備する再開発が中心ですが、西新宿は既存ストックを活用したアプローチによって賑わいを創出しています。例えば新宿住友ビルは低層部に国内最大級の全天候型イベント空間『三角広場』を新設し、損害保険ジャパンは42階にあった美術館を敷地内の足元に再整備しました。こうした手法は、単なるスクラップ&ビルドではない、エリアの魅力向上のひとつの指標となるでしょう。

西新宿には東京医科大学もあります。

他の都心のターミナル駅周辺には、大規模な大学病院がありません。西新宿には大きな公園もあるため、大学病院とも連携した健康づくりの拠点としても可能性があると感じています。西新宿には約20万人が働いているため、予防医療や健康、スポーツなどの知見を高めるには最適な場ではないでしょうか。また、工学院大学は防災などの研究で高い知見を持たれています。新しいビジネスを立ち上げるための街全体のポテンシャルは大きいと思っています。

将来的にはどのような街にしたいですか。

『未来の東京』戦略ビジョンでは、公開空地や道路を一体的に再整備し、都市の新たな価値を創造する方針を掲げています。5G戦略との組み合わせによって街の魅力度が向上し、多様な人が交流することにより新たなコミュニティが誕生、新たなビジネスやイノベーションの誘発を期待しています。『西新宿は面白い』と考えるスタートアップが集いオフィスビルを借り、交流を通じて成熟し大企業へと成長する。そんなストーリーをたくさん描いていきたいですね。

  • 吉田 泰己
    小林 洋平
    大成建設 都市開発本部まちづくり推進室長

    1993年大成建設入社。不動産開発や環境に配慮したまちづくりなどの業務に従事してきた。新宿副都心エリア改善委員会では2014年の一般社団法人化に伴い事務局長に就任し、2021年から現職。