VRによって物件を詳しく紹介、空き家問題の解決を目指す

2021.12.27

官公庁と連携したスタートアップ
スペースリー
連携先の行政機関
広島県江田島市
行政機関側の課題
毎年500人規模で
人口減少が続き、
空き家問題が深刻化
導入したプロダクト
室内の状況を360度にわたって
確認できるVR(仮想現実)
導入以後の感想/結果
江田島市はこれまで、
ホームページを通じ空き家の
情報発信を行っていたが、
問い合わせ率は向上
今後の展望・課題
地域振興や観光につなげること

広島県には大型の製鉄所や自動車工場を核とした〝ものづくり産業〟が集積している。起業家でもある湯﨑英彦県知事は、こうした基盤を踏まえ「イノベーション立県」の必要性を唱えており、ハードとソフトの両面でさまざまな施策を展開している。そのひとつが「ひろしまサンドボックス」。AIやIoTを中心に県内外の企業や人材を呼び込み、産業・地域課題の解決に向けて砂場(サンドボックス)のように、何度でも試行錯誤を行える場だ。空き家問題が深刻化している江田島市はサンドボックス事業を活用、VR(仮想現実)ソフト事業を展開するスペースリーと連携し空き家バンク物件のバーチャル案内という実証事業に取り組んだ。サンドボックス事業を担当する広島県庁商工労働局イノベーション推進チームの尾上正幸主任に、サンドボックス事業の狙いなどについて聞いた。

サンドボックス事業の成果をパッケージ化

――サンドボックス事業ではどういった実証実験が行われましたか

尾上「核となるのは、広島県が1件当たり1億円を投資して2018年からスタートした9つのプロジェクトです。そのひとつが、島しょ部での傾斜地農業の効率化に向けたAI・IoT事業です。土壌の温湿度などを計測するセンサーを活用、どのような環境でレモンの収穫量が変動するのかといったデータを収集し、ドローンによる運搬などの実証に取り組みました。この結果、多くの技術が傾斜地農業においても実用できると判明したので、実証実験を行った企業が中心となってパッケージ化して横展開することを考えています」

全国のスタートアップとマッチング

――大型の実証実験以外にもさまざまなメニューを用意しているようです

尾上「そのひとつがフィールドチャレンジ事業です。広島県には農家の高齢化や空き家の増加、交通手段の分断など解決が求められる課題が山積しています。このため日本全国のスタートアップと県内の市町・団体とのマッチングを図り、AIやIoTを活用して地域発のイノベーションを創出し課題を解決するのが事業の目的です。マッチングに当たってはデロイトトーマツベンチャーサポート(DTVS)のSaaS型オープンイノベーションプラットフォーム『six brain』を活用しました」

ゲーム感覚で大型商店街を活性化

――フィールド事業の具体的な事例を紹介してください

尾上「広島市内にある商店街のさらなる活性化を図るため、位置情報アプリ『ビットにゃんたーず』を提供するリアルワールドゲームスとマッチングし、サンフレッチェ広島とのコラボ企画『INTOWNWALK』を4月から5月にかけて開催しました。『ゲーム感覚で街の魅力を再発見しよう』という趣旨に基づいたイベントで、商店街を回遊しながら提携店舗にチェックインすることにより、サンフレッチェ広島の選手コレクションを入手できるイベントです。」

スタートアップとの協業を推進

――今後もスタートアップとの協業を推進していくのでしょうか

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大によって顕在化した諸課題をデジタル技術によって克服することで、新しい日常を構築し、地域経済の活性化を目指すアクセラレーションプログラム『D-EGGS PROJECT』を2020年10月にスタートしました。実証実験を支援したいという自治体も多く、スタートアップとの連携がさらに進みそうな流れになっています」

デジタルとの融合で、ものづくりはさらに発展

――スタートアップが集まることによって、どのような効果が期待できますか

尾上「広島県はものづくり産業が集積しており、スタートアップが開発したデジタルなどの高い技術と融合した時に、これまでとは異なる発展が考えられます。広島に行けばものづくり関連の充実したリアルな場があるし、『サンドボックスのようなフレンドリーな場がある』という空気を醸し出すことで、新たなプレーヤーが集うようにしたいですね」

空き家をバーチャル案内

広島県の南西部にある江田島市は、瀬戸内海で4番目に大きい島。広島市に隣接し本土とは橋でつながっているため立地条件は良いが、毎年500人規模で人口減少が続いている。これに伴って空き家問題が深刻化しており、移住定住の促進事業に力を入れている。その一環としてサンドボックス事業を活用し、空き家バンク物件のバーチャル案内という実証事業に取り組んだ。協業相手はVR(仮想現実)ソフト事業を展開するスペースリー。森田博和代表取締役にサービスの特性などについて聞いた。

主要顧客は不動産事業者

――VRソフトは主に、どういった領域で使用されていますか

森田「2016年に事業を開始して以来、利用事業者は5000を超えています。8割近くは賃貸の管理、仲介を中心とした不動産関係です。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によってVRの活用で成約率を高めようというニーズが一気に高まりました。」

評価が高いサポート体制

――どのような部分が評価され、実証実験に至ったと思われますか

森田「サービスは街の小さな不動産会社でも利用しています。ITリテラシーが決して高くなくても自らの運用が可能なシステムで、それを可能にするサポート体制を構築しているからです。こうした強みに加え今後の有効な活用法をイメージしやすい、といった点も評価につながったのではと認識しています。」

室内を360度にわたって確認

――コンテンツの特徴を教えてください

森田「室内の状況を360度にわたって確認できるVRです。マニュアルに則る形で江田島市の職員自らが制作、編集、運用できます。現地に足を運び撮影して編集に至るまで1時間で済みます。離れた場所にいる人は現地物件を確認することがなかなか難しいし、COVID-19によって移動も制限されています。こういったコンテンツが用意されていると、きちんと情報を絞り込んで問い合わせを行うケースが増えてくるでしょう。」

契約率の向上につなげる

――どういった効果が表れていますか

森田「江田島市はホームページを通じ空き家の情報発信を行っていましたが、入口の部分に相当する問い合わせ率は向上しました。1400戸の空き家を順次VR化する計画を進めており、今後は契約率をいかに高めていけるかが課題となります。リモート型の接客やメール・Web会議でのやり取りを含めてパッケージの中で行えるようになっているため、段階的に有効活用されるようになり、課題解決にもつながるでしょう。」

地域振興や観光にも対応

――自治体に向けては今後、どういった戦略を展開していくのでしょう

森田「空き家の数は全住戸の10数%を占めているだけに、空き家対策は社会的にも大きな課題です。サービスを通じ大いに貢献したいと思っています。そのためには事例を積み重ねて「こういった手法がある」といった点を、広く知ってもらえるようにすることが重要です。また、行政にとっては地域振興や観光も大きな課題となります。当社のサービスは空き家対策とのパッケージとして使え費用対効果も大きいので、是非とも利用して頂きたいです。」